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アーティスト【岩切 章悟】~地球と吉祥寺を愛すウォールアート~

アンダーライン

福島県の猪苗代湖畔にあるお宿「レイクサイドホテルみなとや」。
こちらのホテルの1階~4階屋上までの階段の壁一面に、熊や鳥、鹿などの動物が色彩豊かに描かれております。
2年の歳月をかけ描かれた壁画は、1人の武蔵野市出身のアーティストによって生み出されました。
白を基調としたその絵は、1度見ると世界観に引き込まれる不思議な力を感じます。
今回ご紹介するのはアーティスト【岩切 章悟】さんです。

●生まれも育ちも吉祥寺
岩切さんは、保育園・小学校・中学校と、それぞれ御殿山から通っていた生粋の吉祥寺っ子です。
中学に関しては同じく吉祥寺っ子の編集長の後輩(1つ下)になります。
高校卒業から20代前半までは飲食店でアルバイトをしておりました。
その時につながった仲間たちは現在、吉祥寺の街の中で飲食店を開業しているとか。

最初趣味で描いていた絵の世界の仕事に就くと決めたのは23歳の頃。
約3年後には軌道に乗り始めたそうですが、同時に先の未来にスランプの予感がしたそう。
新たな創作へのきっかけをつかむのと、絵を描くために3年の準備期間を経て29歳の頃に長期の旅に出発。
数十カ国旅をする中で出会ったのが『壁画』でした。


●『壁画』と出会って
元々興味のあった『壁画』の世界でしたが、南米で生のアートと出会って刺激を受けたそう。
街の風景に溶け込んだ『壁画』を自分の創作として決めた瞬間でした。
また、旅によって都会では得られなかった自然との出会いもありました。
もし都会で住んでいたら見られないような野生・本物の自然などにカルチャーショックを受けて視野が広がったとか。
現在の考え方の基盤にもなっている「都会の中での拠り所として街に自然感覚を絵で表現し、文化的に取り入れていかないか?」という問い。
街影に自然を落とし込む難しさなど、今でも模索の最中だそうです。


●『壁画』を通じて明るい気持ちに
2011年、旅で訪れていたモロッコのテレビで東日本大震災を知った岩切さん。
4月にやっと帰国し地元吉祥寺の街に戻ったところ、余震の怖さなどですっかり街の雰囲気が暗くなっておりました。
そこで、近所の壁に、持ち主の許可を取って描いたのが作品名「con la tierra」。
白を基調として、色彩豊かに描かれた自然と黒で描かれたビル(街)の姿を描いた作品でした。
この「con la tierra」はスペイン語で「地球とともに」という意味となります。
『街は地球の上にあるということを忘れてはならない。地球とともにある』という気持ちが込められております。
黒く描かれたビルは白で描かれた自然の下にあり、「文明は地球や災害の中では小さく脆いもの」「(人々が)助け合い、都市生活の中で薄れた自然からの脅威や豊かさを感じ取る意識、感覚(本能)をけして忘れてはならない」という気持ちが込められているそうです。
以降「con la tierra」スタイルとして、数々の作品を制作していかれます。

2012年、東北へ復興ボランティアに行った際に『長洞元気村』という仮設住宅の村に出会いました。
そこは今まで海とともに育ってきた住人たちが、怖いながらも慣れ親しんだ土地に仮設住宅を建てて暮らしていました。
村長さんとお話した岩切さんは、村長が元旦に「浜辺で見た初日の出に希望を感じた」という話を聞き、この地に合う『壁画』を描くことを決めました。
海の思い出はもちろん、前に進み出す一歩になるスイッチになれるような『壁画』にしたいと制作。
海や魚を恋しがっていた人々のために、魚を描き込んだことをきっかけに、以降の作品にも魚のモチーフは描くようになったそうです。
出来上がった作品「salida del sol」は、その年の3月11日に村の人々の好意よってささやかな贈呈式が行われたとか。


●街の活性化にアートを
生まれ育った吉祥寺への恩返しとして、アートの方向で面白い街にしていきたいと語る岩切さん。
過去に3階建ての建物の外壁に大きく『壁画』を描いたり、お隣にある杉並区からのオファーで街の壁画を描きました。
その経験を活かし、吉祥寺の地でもおなじことがやりたいと考えているそうです。
最初に描いた「con la tierra」は、それを通じてご近所との付き合い(コミュニケーション)に発展しました。
そのように、街の人々との交流ツールとして『壁画』を街の景色に溶け込むようにところどころに設置したいそうです。

また、自分だけでなく若いアーティストの活動の場としての『壁画』を作りたいとも想っております。
本物のアーティストの絵に触れて情操教育に生かしたり、気軽に若い人でも描ける「壁」を設置して自由に描ける場を設けるなど、描ける人々が増えて街の色としてのアートが浸透する土台が吉祥寺でできるのが夢だそうです。
「(そんな壁画が増えたら)壁画マップが作れたら面白いな」と語る岩切さんの瞳は未来を明るく見ている気が筆者はしました。

●「仲間の店にはよく行きますよ」
飲食店アルバイト時代のお仲間の店には、仕事の合間によく通っているそうです。
また、オーナーがお母様とご友人とのことで「まめ蔵」には昔からよく行っているとか。
オーナーさんもアーティストだそうで、東北の復興ボランティアはオーナーさんと一緒に向かったとのこと。
吉祥寺の昔ながらを味わえるとして「浜やん」と「中清」にも時折訪れるそうです。

地元・吉祥寺大好きの岩切さんのお気に入りスポットは、自らの『壁画』がある道、通称「ハミングストリート」。
ご近所さんと『壁画』を通じて交流するのが楽しいそうです。
また、井の頭公園ももちろん好きだそうで、この都会で虫や動植物と触れ合える貴重な場所だとおっしゃっておりました。

「鮮魚屋」や「じゅん粋」のシャッターには、祭りや縁起物をモチーフにした絵があり、他には中道通りにある「LUNAFERITA」や第一ホテル裏、西一条通りにある「T.K for hair salon」、更に「ハレナリ」や 井の頭通り沿いにある「じぃま」には店内にオリジナルの絵が飾られているなど、「ハミングストリート」以外で岩切さんの絵が観られる場所になります。
どの場所も街の景色に『壁画』が溶け込んでいます。
この先ドンドン、素敵な『壁画』が増えていけば良いなと、筆者は願っております。