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【Mr.MOJOの吉祥寺奇譚】第二話 スナック AmbeR

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【Mr.MOJOの吉祥寺奇譚】第二話 スナック AmbeR
※この物語はフィクションです



 成瀬豪から手渡された茶封筒。その中身は或る店の会員証だった。前々から頼んでいた物。そう、やきとん屋の裏の顔は贋作師。偽造されたそのカードには私の顔写真と仮の身分が記載されていた。満足な出来に自然とほくそ笑む。
 時刻は二十一時。ある筋の情報によれば、そろそろ看板に火が灯る頃合いだ。初秋といえまだまだ暑い。それなのに私は今、かつて無い武者震いに寒気すら感じていた。

 数年前に武蔵野の地に堕天した悪魔が経営するスナック「AmbeR」。会員制を謳っているが、入会には魔界の儀式を通過しなければならない。永遠の忠誠と多額の献金。それらと引き換えに漸く会員証がもたらされる……まあ、あくまでも噂だが。
 成瀬が作った偽造の会員証は門番の目をすり抜けた。若干の不安はあったが、無事に潜入出来たことに胸を撫で下ろす。後ろ手に扉が閉まる。漆黒の闇。やがて目が暗闇に慣れてくると、うっすらと店内を見渡す事が出来た。



 カウンター席には虚ろな眼をした客たちが生ける屍の如く、黙々と怪し気な液体を喉に流し込んでいる。バックバーには犠牲者たちの魂が封じられたボトルが所狭しと並べられ、薄褐色の瓶の中を青白く照らしていた。
 「あら、いらっしゃい」
 妖艶な声に我に返る。
 カウンター席の奥の方、女は隣の客のボトルから琥珀色の液体を自らのグラスに注ぎ入れて言った。
 「見ない顔ね。うちの店の会員だったかしら?」 女は小首を捻る。
 「……まあ、いいわ。今夜は静かみたいだから、少し遊んであげる」
 そう言うと、その女悪魔は胸元を強調した赤いドレスから伸びた脚を組み換え、私に向き直りニヤリと微笑った。

〈第三話に続く〉