【Mr.MOJOの吉祥寺奇譚】第三話 井の頭自然文化園
【Mr.MOJOの吉祥寺奇譚】第三話 井の頭自然文化園
※この物語はフィクションです
結論から言うと、魂までを獲られる事はなかった。
しかし、ナナと言う名の悪魔が営むスナック「AmbeR」にて一夜の凄惨な出来事があった事だけは伝えておこう。だが、それはまた別の話。いつかあの時の傷が癒えたら語るときが来るかも知れない。
ヨドバシ裏には悪魔が潜む。その事実を何人も忘れてはならないのだ。
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あれから数週間後。
私は魂の浄化を求めて再び吉祥寺へとやって来た。
陰と陽は表裏一体。魔界都市吉祥寺と呼ばれはすれ、其処には安息の場もまた存在する。南口改札を出て井の頭通りを三鷹方面に。焼き鳥「いせや」を右手に公園方面へと足を向けると程なくして目的の場所が見えてきた。
井の頭自然文化園。静寂に包まれたこの場所はさながら都会のオアシスの様だ。少額の入園料を支払い、午後の園内を散策する。売店で購入した紙コップの生ビールを手に美獣たちと触れ合うのだ。従業員の眼を盗み、手にしたビールを山羊の口に注いでやる。眼を赤くキマらせた山羊が無言でお代わりをせがむ。
「はははは。飲め。飲むがいい!」
これは決して虐待ではない。解放だ。魂の浄化なのだ。山羊はビールを飲み干し、メェェと鳴いた。
動物たちは縄張り意識が高い。私たち人間くらいだろう、他者との距離に無頓着なのは。
一瞬の判断が生死に直結する自然界と違い、人間は生物としての危機感を失いつつある。動物園の動物達の様にシステムに飼い慣らされているのか。
「もうこんな時間か」
動物たちを相手に充分に生気を養った私は、一路、繁華街に向けて歩き出すのであった。
〈第三話に続く〉