【Mr.MOJOの吉祥寺奇譚】第四話 小手毬
【Mr.MOJOの吉祥寺奇譚】第四話 小手毬
※この物語はフィクションです

独り者にとって、予定の無い週末の夜ほど憂鬱なことは無い。それでも腹は減るし、コンビニ弁当で済ますのも虚しさが募るだけだ。友人知人を誘うにしても、家庭持ちにはそれなりの手続きが必要で、急には呼び出せない。ならば致し方ない。独り気の向くままに夜の街を探索と参ろうではないか。
駅前へと向う途中に思い出した。いつだったか、バーのカウンターで隣り合わせた女性の事を。
その店、小手鞠は吉祥寺駅西口に近い所の地下にあった。小料理屋という体で、まだ若い女主人がアルバイトの娘との二人で切り盛りしていた。

カウンターの上には大皿に作り置きされた料理が並べられている。小さな、しかして清潔感のある店内。女主人らしい気配りがあちらこちらに見受けられる。
ざっと見た感じ十席有るか無いか。カウンターと二人掛けの小さなテーブル席。それに壁際に設えた補助席の様なもの。その全てが背広を着た仕事帰りの男たちで埋まっていた。
すし詰めの客席より、カウンターの中の方が広々としている位だ。男たちは一人、もしくは二人連れで、店で顔見知りになったであろう肩を並べたその他の客たちと談笑しながら日本酒を舐めていた。
空いた席は無かったのだが、しばらく待つとカウンターの客が一人、会計を済ませて席を立った。タイミングが良い。若女将の案内でその席に腰を下ろす。
「いらっしゃいませ」
男性客たちの低い話し声を割って高い花やかな声が来店したばかりの私に向けられた。客年齢が高めなせいか、彼女からは幼さと大人の女性、その両面が垣間見れた。それがまた良い塩梅で店に華を添えている。
私はカウンターから溢れる会話をつまみに、いつかの女性が忙しそうに働くのを視界の隅にとらえながら独り、酒を楽しんだ。
〈第五話に続く〉
