【Mr.MOJOの吉祥寺奇譚】第一話 やきとんなるせ
【Mr.MOJOの吉祥寺奇譚】第一話 やきとんなるせ
※この物語はフィクションです
今年もまた秋祭りが始まる。もしかしたら、この冊子を手に取る頃には、神輿を肩に乗せた担ぎ手たちの威勢の良い掛け声が聴こえているのかも知れないが……。
そんな現実世界とはうって変わり、これはとある世界線の非現実な世界の話。
『吉祥寺ーーーー』
車内からホームへと足を踏み出す。改札を出て、階段を下ると人熱れ。夕方の、怪かし通りバス通り。週末の逢魔が刻の駅前は人でごった返していた。
何も考えずに歩いていたら南口に出ていた。特に目的地は無かったので、時間が早かったこともあり、なるせへ行こうと決めた。回れ右をして一路、北口の中央線ガード脇を抜け、通い慣れたヨドバシ裏へ。
オープンしてまだ小一時間ほどしか経ってないが、やきとん「なるせ」は既に満席に近かった。残り僅かとなっていたカウンター席へと肩を滑り込ませる。
店主の成瀬豪が忙しく手を動かしながら視線を向け注文を待つ。
「緑茶割りを」
普通ならそれで注文が通る筈だ。しかし、店主は私の言葉に重ねて訊いてきた。
「緑ハイ、幾つ?」
連れなどいない。であれば答えは当然一つに決まっているが。そうか、そういうことか。
私は指を二本掲げる。
成瀬はニヤリと嗤った。
もはや恒例であり、儀式でもある乾杯を店主と交わした私はいつもの串を頼んだ。肉々しいハラミの歯応えと口中でぷちんと弾けるチレの食感がクセになっていたのだ。新生姜のバラ巻きがあればなお良かったのだが、時期では無い。
「そういえば旦那。例のブツ、出来てますぜ」
成瀬が差し出してきた茶封筒にはほんのりとタレが滲んでいた。それを受け取り、中身を確認する。私は礼を言い、会計を済ませると店を後にした。
〈第二話に続く〉